2024年11月、OCEANUS20周年アニバーサリーイヤーを締めくくるモデルとして、「OCW-S7000SG」がリリースされた。その特徴は、OCEANUSが腕時計として初めて採用し、大いに話題となった「江戸切子」のサファイアガラスベゼル。そのカットや色の表現は、何を表現し、どう進化したのか。商品企画を担当されたカシオ計算機、商品企画部の佐藤氏とデザインを担当された同社デザイナー、梅林氏に聞いた。
OCEANUS 20周年のテーマは「航海」。それはこの20年間、大小の波を乗り越えて進み続けてきたOCEANUSの歴史について大海原を往く旅路になぞらえたものだ。
そして、アニバーサリーイヤー前半を代表するモデルとしてリリースされたのがManta「OCW-S7000BV」。白蝶貝のダイヤルに、ブルーのラッピング処理で荒波を階調豊かに表現。青から黒へのグラデーション蒸着を施したサファイアガラスベゼルとともに、新たな「オシアナスブルー」で壮大な海を表現した。
ところで、OCEANUSにはもうひとつ、独自の世界観がある。そう、日本の伝統的な技術と美意識を時計のデザインに融合させた「伝統と革新」のコンセプトだ。
佐藤氏「もともとアニバーサリーモデルには、この『伝統と革新』を受け継ぐモデルを入れたいと思っていました。特にサファイアガラスベゼルに江戸切子を採用した『OCW-S4000C』(2018年)、いわゆる江戸切子モデルは、毎回お客様にも好評で、その後の阿波藍(あわあい)や蒔絵(まきえ)とのコラボレーションにも繋がっていく出発点でしたし、カシオとしても特に思い入れがありました」
しかし、それだけで江戸切子を使うことには抵抗があったと佐藤氏は言う。
佐藤氏「それを使うには、20周年のテーマ『航海』に帰結するストーリーがあるべきと思ったのです」
お二人は、OCEANUS代々の江戸切子シリーズでサファイアガラスベゼルの加工と監修を務める「堀口切子」三代秀石である堀口徹氏や、ガラスメーカーの方々と打ち合わせを重ねた。そしてあるとき、梅林氏が次のような提案をしたという。
梅林氏「表面に加えて、裏面にも千筋(せんすじ)※1 を入れてみたらどうでしょう、と提案してみました。そしたらメーカーさんが持ってきていたサファイアガラスベゼルのテストピースに、堀口さんが『試しにやってみましょうか』と、表と裏に千筋を入れてみてくれたんです。
※1 切子のカットライン
すると、これが想像以上の効果を生み出した。 表面のシャープで力強いエッジに対して、裏面のエッジはより深層にあるように見えて、薄いガラスなのに奥行きを感じさせる。 それが静かな海に波が立っているかのようで、今までの切子モデルとは異なる躍動感と精緻感を併せ持ったデザインになる予感がしました」
これにより、今までの「千筋がダイヤル上の中心点を起点に放射状に広がる表現」から、「3時側から9時方向へと進む船の航跡」にイメージが広がった、そしてこの「航跡」というコンセプトで、OCEANUSUが今まで進んできた道のりと、これからも航海が続いていくというストーリーを表現。最新の江戸切子モデル「OCW-S7000SG」は、OCEANUS 20周年のメインテーマ「航海」を背負うにふさわしいモデルとなったのである。
ベースモデルは「OCW-S7000BV」同様、最新のManta「OCW-S7000」。電波ソーラーとBluetoothによるモバイルリンク機能機能を搭載しながら、高密度実装技術によりケース厚わずか9.5mmを実現したクロノグラフだ。
佐藤氏「ベースモデルはスポーティーな印象を強調するため、サファイアガラスベゼルの幅を狭(せば)めたデザインとしていたのですが、今回の『OCW-S7000SG』は江戸切子の印象を強く打ち出すためにベゼルを太くし、設計を一部変更しました。それでもケース厚は9.8mmに収めています」
なんと、わずか0.3mmしか変わっていないとは驚きだ。ちなみに、限定モデルのために時計本体の設計を変更したそう。このモデルに思いが込められていることが伝わってくる。カシオがまさに「ナミナミならぬ」(航海だけに! )思い入れで開発に臨んだことが推測できる。
実際、そのベゼル加工には、想像を超える苦労があった。
梅林氏「自分でデザインしておきながら言うのも恐縮なのですが……、このカットが非常に難しいんです。今までの切子モデルは、基本的にベゼルのパーツを手で回しながら千筋を入れていくことができました。しかし、この『航跡』のデザインは千筋の向きが上下対称なので、途中でパーツを持ち替えなければならないのです。
また、「航跡」の千筋は、船の舳先(へさき)が海面を切り裂いて進んで行くのを表現するため、9時方向の千筋は間隔が狭く、3時方向に行くに従って角度が変わり、間隔も広くなる。つまり、一定のリズムでテンポよく作業できない個所が多いのです。それがパーツの表裏両面にあるわけですから堀口さんも大変だったと思います。」
しかも前述したように「OCW-S7000SG」のベゼルには、最初の江戸切子モデル「OCW-S4000C」よりも多い計40本もの千筋が入っている。
佐藤氏「これはシリーズ最多の本数です。(※2)また、サファイアガラスは硬くて粘る材質なので、千筋を入れるためのダイヤモンドホイールの刃がすぐにダレてしまう。シャープなエッジをキープするには、頻繁に刃物を研ぐ作業をしなければなりません。これがまた作業のテンポを狂わせてしまうのです」
※2 S5000EKも裏面に40本の千筋が入っている
梅林氏「もちろん、作業性もできる限り考えているのですが、オリジナリティのあるデザインを実現するためにはどうしても高度な技術を必要とする工程が出てしまう。それでもやり遂げてくれた堀口さんや職人の方々、提携メーカーの方々には本当に感謝しています。」
『OCW-S7000SG』は世界限定1,600本の限定モデルだが、生産に使用する江戸切子のサファイアガラスベゼルを確保するだけでも、実は大変なことなのだ。
千筋が施されたサファイアガラスベゼルは、裏面から蒸着が施される。いわゆるオシアナスブルーだ。今回は光を反射して輝く、エメラルドグリーンが選ばれた。
佐藤氏「皆さんご存知のように、OCEANUSは青でカラーブランディングを続けて来ました。おかげさまで『青い時計といえばOCEANUS』というイメージは、時計好きの方には多く持っていただけたのではないかと自負しています」
「ですが……」と佐藤氏は続ける。
佐藤氏「お客様が時計店の店頭でOCEANUSのコーナーを通りがかったとき『おっ! 』 とか『おや? 』って感じてほしいんですよ。OCEANUSは青い時計というイメージだけれど、実際は色々な青を中心とした時計というイメージを感じていただきたい。ラインナップを見て『この青がキレイだね』『こっちの青もいいな』と迷う楽しみもお届けしたいのです。
そこで今回は、一見エメラルドグリーンに見えるけれど、光の当たり方でブルーにシフトする蒸着を新たに開発、採用しました。と、いつものことながら言葉にすると簡単なのですが(笑)、これも蒸着に使用する金属の種類や配合の比率を変えたりしながら、何度も試作を繰り返しました」
なるほど、南の海のサンゴ礁の海をイメージさせる色だ。南の海がエメラルドグリーンに見える一因は、海水の透明度が高く、海底の白い砂や珊瑚の色が反射するためといわれる。そのイメージは、このサファイアガラスベゼルの輝きそのものだ。加えて、OCEANUSの限定モデルはグリーンを使用する伝統があり、その面でもイメージが符合する。
なお、時計業界では「今やグリーンはシルバー、ブラックに続く第3の定番色」といわれる人気色でもある。スーツから覗く腕元かでキラリと光るエメラルドグリーンの江戸切子ベゼルは若々しさと同時に落ち着きもあり、何よりお洒落。いつものManta以上に幅広い年齢層に似合うだろう。
『OCW-S7000SG』は、価格275,000円で発売中。なおスペックなど詳しくは別記事 『カシオ、船の航跡を江戸切子で表現した「OCW-S7000SG」など「OCEANUS」20周年記念4モデル』をご覧いただきたい。
[PR]提供:カシオ計算機株式会社