昨今、飲食店に入ると親と一緒に小さな画面をのぞき込んでいる子どもをよく見掛けるようになった。YouTubeのキッズコンテンツや映画などをスマートフォンで流し、子どもが退屈しないようにしているのだろう。

そんな親子を見掛けるたびに、筆者はガラパゴス携帯とブラウン管テレビが主流だった自身の子ども時代を振り返って大きなテクノロジーの進歩を感じている。

また近年では、玩具メーカー各社も最新のテクノロジーが搭載された製品を数多くリリースしている。日本玩具協会と東京玩具人形協同組合が12月3日に発表した「クリスマスおもちゃ2024 人気投票」では、1位にAIで学習メニューを提案する「ドラえもんAIパソコン(バンダイ)」がランクインするなど、子育てとテクノロジーは切っても切り離せない関係になっている。

そんな中、電通の「AIうえおLab」は、AIを活用した子育ての新たなサービスである「おぼえたことばのえほん」を開発したことを発表した。本稿では、「おぼえたことばのえほん」の開発に携わった企画・制作メンバーの飯田羊氏、油井俊哉氏、木村里奈氏に話を聴いた。

  • 左から「AIうえおLab」企画・制作を担当した飯田羊氏、油井俊哉氏、木村里奈氏

    左から「AIうえおLab」企画・制作を担当した飯田羊氏、油井俊哉氏、木村里奈氏

きっかけは義母の教育方法から

今回、話を聴いたお三方が所属している「AIうえおLab」は、子どもの教育に役立つAIの新しい使い方を考えるラボ。ことば、デザイン、テクノロジーの専門家が集まり、楽しく学べるコンテンツを作り、発信していくための組織として立ち上げられた。

着想のきっかけは飯田氏で、自身の子どもが産まれたタイミングで「教育のために何をするべきか」ということを考える中で、「言葉から興味を広げる」ことの大切さを感じたことがラボ発足のきっかけとなったという。

「義母から『子育てをしていた時、前向き抱っこで散歩に行って、視界に入った情報をひたすら声に出して教えていた』という教育方法を聞きました。そこから、子どもが見ている世界をしっかり言葉に起こして、たくさん言葉をシャワーのように浴びせてあげることが教育の形として有用なのではないかと考え始めました」(飯田氏)

  • AIうえおLabの立ち上げを語る飯田氏

    AIうえおLabの立ち上げを語る飯田氏

この時の発想を同期入社であるクリエイティブテクノロジストの油井氏とアートディレクターの木村氏と共に形にしたサービスが、今回紹介する「おぼえたことばのえほん」だ。

興味のあることから言葉を広げる「おぼえたことばのえほん」

「おぼえたことばのえほん」は、「ママ」や「パパ」といった言葉を覚え始める1歳以降の子どもへの読み聞かせに最適なサービス。AIがつくる絵本は「〇〇がみているせかい」というタイトルで、例えば、子どもが覚えた言葉として「くるま」を入力すると、「くるまのみているせかい」という絵本が生成される。

  • 「おぼえたことばのえほん」のイメージ

    「おぼえたことばのえほん」のイメージ

子どもが覚えた言葉の「よこにあるもの」「うえにあるもの」「したにあるもの」など、関連するものや周辺の言葉を紹介する物語によって、子どもたちは新しい言葉を知り、世界を広げていくことができる仕組みとなっている。

筆者がインタビューの際に試させてもらった言葉は「お正月」。「お正月の『よこ』にあるもの」は「かがみもち」、「お正月の『うえ』にあるもの」は「たこ」、「お正月ときみが『いっしょ』になったら?」という質問には「たのしい きねんび になった!」というような文言で絵本が構成されていた。

  • 「おぼえたことばのえほん」のイメージ(「お正月のみているせかい」)

    「おぼえたことばのえほん」のイメージ(「お正月のみているせかい」)

このように「くるま」「りんご」といった実在する物体はもちろん、「お正月」「さよなら」「自由」といった概念やイベント、「わんわん」「ずるずる」といった擬音にも対応して言葉のイメージから絵本を生成してくれる。

10月25日〜11月9日の読書週間に、期間限定でプロトタイプを公開した際には、8000以上もの言葉で絵本の生成が試みられたという。

  • 生成された絵本の例

    生成された絵本の例

「『おぼえたことばのえほん』は、興味のあることから言葉を広げて、新しい言葉に出会えるように、なるべくたくさんの言葉に対応するようにプロンプトを組んでいますが、存在しない言葉や企業名、国名などでは絵本が生成できないようになっています。子ども向けのサービスなので、親子で安心して使っていただけるように、NGワードで絵本が生成されない仕組みになっています」(油井氏)

  • 「おぼえたことばのえほん」の概要を説明する油井氏

    「おぼえたことばのえほん」の概要を説明する油井氏

また、絵本全体のデザインはすべて木村氏が設計しており、温かみがあり、子供に親しみやすいポップなデザインになっているという。

血の通ったAIで新しい当たり前を作る

今回紹介した「おぼえたことばのえほん」が、ラボが開発したサービスとしては第1弾となるが、今後はさまざまなアップデートや別シリーズでの展開も考えているという。

構想としては、まず、これまで覚えた言葉の一覧から絵本を何度でも読み直すことができる「おぼえた言葉アーカイブ」、トレンドや季節の言葉などおすすめの言葉を提示して絵本をつくれる機能である「おぼえてほしい言葉」、お気に入りの絵本を印刷して届けるサービスを検討しているという。

  • 同期として忌憚のない意見が交換できるのも「AIうえおLab」の良い雰囲気を作っている

    同期として忌憚のない意見が交換できるのも「AIうえおLab」の良い雰囲気を作っている

最後に、それぞれに今後の展望や「AIうえおLab」にかける想いを聞いた。

「友人から『子育てをしていると世界が狭くなってしまう』という悩みを抱えているという話を聞く機会もあり、子どもだけでなく、親目線でも世界を広げられるサービスにしていけたらいいな、と思っています」(木村氏)

  • 今後の展望を語る木村氏

    今後の展望を語る木村氏

「クリエイティブテクノロジストとして、これらのサービスを通じて『血の通った、人の心に寄り添ったAIの使い方』を確立したいと考えています。AIと子どもの関わり方は、今後どんどん変わってくると思うので、AIと子どもが『パートナー』として一緒に成長していけるような形を探っていきたいなと思っています」(油井氏)

「今までも写真で子どもとの思い出を振り返るサービスはたくさんありましたが、それらのサービスとは違うベクトルで、『言葉』という視点で子どもとの思い出を残していくサービスの先駆けになりたいです。新しい価値観や新しい当たり前が作れるといいかなと、思っています」(飯田氏)