第481回で、RTXのレイセオン部門が開発しているAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダー「ファントム・ストライク」に少し言及したことがあった。その続報も交えて、無人戦闘用機に関わる機材の話を取り上げてみたい。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • DSEI Japanで展示された「ファントム・ストライク」の模型。アンテナが2種類あるのは、送受信モジュールの数が違う関係 撮影:井上孝司

ファントム・ストライクの特徴は空冷化

「ファントム・ストライク」については、2022年の末ぐらいだったか、レイセオンの担当者にお話を伺って記事にしたことがあった。

それからしばらく話が聞こえてきていなかったが、2025年5月6日に「初の飛行試験を実施した」との発表があった。場所はカリフォルニア州のオンタリオ、使用したのは社有の試験用機RMT(Raytheon's Multi-Program Testbed)とのこと。

  • これがRMT(登録記号N289MT)。ボーイング727の改造機で、尖った機首にレーダーを搭載する 写真:USAF

「ファントム・ストライク」は、窒化ガリウム(GaN)半導体を用いる送受信モジュールを中核としているが、特徴は「空冷化」にある。

バックエンドの電子機器にしろ、多数の送受信モジュールを束ねたフロントエンドのアンテナ・アレイにしろ、通電して作動させれば発熱する。そこで普通は液冷にしているが、「ファントム・ストライク」は空冷にした。

液冷だと冷却液の流路に加えてラジエーターを用意しなければならないが、空冷なら冷却液の循環に関わるメカが不要、そして機械的な可動部分を減らせる。保守負担の軽減や信頼性の向上につながるし、機体に搭載する際の物理的なインテグレーションが容易になる。

担当者にも少しお話を伺ったところ、「空冷だと、ゆっくり飛んでいるときには冷却されにくいのではないか」といわれたことがあるそうだ。しかし、ゆっくり飛ぶような場面では、普通はレーダーは作動させる必要はないと思われる。レーダーを必要とするのは戦闘任務中なのだから、そこでノンビリ飛んでいたら我が身が危ない。

DSEI Japanの会場に実大模型が展示

「ファントム・ストライク」は、同等の能力を持つ既存AESAレーダー製品と比べて、消費電力を65%まで抑えて、かつ最大80%の軽量化を図れるとしている。もっとも小さいモデルで、アンテナ・アレイの重量が約100ポンド(45.4kg)、パワーコンディショナ・ユニットが約30ポンド(13.6kg)程度だという。

その「ファントム・ストライク」の実大模型が、DSEI Japanの会場で展示されていた。そのうちアンテナ・アレイは、サイズが異なる2種類を展示していた。つまり、スケーラビリティをアピールしたいということであろう。

「ファントム・ストライク」はプラットフォームを選ばない設計という触れ込み。まず軽戦闘機に搭載する話が決まっているが、回転翼機、無人機、さらに地上設置も可能だとしている。アンテナ・アレイを構成する送受信モジュールの数を増減させれば、大きいレーダーも小さいレーダーも作れる。

無人戦闘用機にも向いている

こうしたレーダーは、いわゆる「忠実な僚機」にも向いている。米空軍が進めているCCA(Collaborative Combat Aircraft)計画が、その一例。もっとも、この手の機体として最初に登場して脚光を浴びたのは米空軍が最初ではなく、ボーイングがオーストラリアで手掛けている「MQ-28ゴースト・バット」だが。

なにしろこの種の機体、「有人機に代わって危険な任務を引き受けてもらう」狙いであるから、墜とされても諦めがつくように、できるだけ安価にまとめたい。ウクライナで、次から次へと無人機が墜とされている状況を思い出してみて欲しい。

しかし、かりにも戦闘任務を受け持つ機体であるから、相応のセンサー能力は欲しい。それなら「小型軽量・シンプル・安価なAESAレーダー」は有用と考えられる。

  • ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)は米空軍のCCA計画に参画しており、その模型を展示していた。空軍の制式名称はYFQ-42A 撮影:井上孝司

  • 同じように無人戦闘用機の模型展示を実施していたのが、三菱重工 撮影:井上孝司

それはレーダーに限らず、エンジンでも同じこと。もちろん必要な性能が出ることは大前提だが、調達や維持管理の負担は少ない方がいい。すると、すでに民間で多用されていて実績があり、低燃費で整備が楽なエンジンはありがたい。そこでハネウェル・インターナショナルでは、日本の高等練習機計画や無人戦闘用機計画向けに、F124エンジンを提案している。

シンプルで安価なコンポーネント、すでに実績があるコンポーネントを活用することは、ことに無人戦闘用機の分野において、リスクとコストを抑えるために重要な話であろう。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。