昨今、先端半導体の需要が高まっているのと比例して、製造における環境負荷が社会課題となっています。そうしたなか、SCREENグループは持続的な成長を実現するためのサステナブル経営を推進しており、長期的な環境・社会・企業統治(ESG)課題の解決に向けた中期経営計画「Value Up Further 2026」の非財務目標として「Sustainable Value 2026」を策定したといいます。

今回は、環境負荷削減を目指してSCREENセミコンダクターソリューションズが取り組む、エネルギー負荷の低いコータ・デベロッパ開発の経緯や効果について伺いました。

  • 企業の建物を前にしたメインカット

    株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ R&D戦略統轄部 イノベーション推進部
    H.M氏

先端半導体では、製造工程数の増加による資源使用量の増大が課題に

--お仕事内容について教えてください。

SCREENセミコンダクターソリューションズで外部組織との協業テーマ選定や活動のマネジメント、社内で注目されているトピックやテーマを具体的にビジネスにつなげる選定を担当しています。

先期はコータ・デベロッパにおける、2~3年後のビジネスにつながる技術開発をしていましたが、今期は中長期を含めたコータ・デベロッパのビジネスについて戦略を練る部署で、協業先のimecと共同開発を行っています。具体的には、当社で開発したシステムを提供し、imecと実際の性能評価をするというスキームでそのマネジメントを担当しています。

SCREENグループとしては、現在「Sustainable Value 2026」の実現に向けて取り組んでおり、2050年のネットゼロに向け、2030年3月までに2019年比で温室効果ガス排出量を58.1%削減することなどを目標としています。

イノベーションによって壁を突破し、ビジネスチャンスへと変えるのが現在の私の仕事です。

  • 春本氏のインタビュー写真

    株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ R&D戦略統轄部 イノベーション推進部
    H.M氏

--先端半導体の製造工程を取り巻く課題感についてお聞かせください。

先端半導体では従来の半導体よりも工程数が増えます。1枚のウェーハを完成させるための処理が多くなるため、これまでのプロセスルールと比較すると素材やエネルギーコストが積みあがります。同じサイズのウェーハでも先端プロセスを採用するとウェーハ価格が上がるのはこのような理由があるためです。

処理が多くなるということは、コストだけでなく環境に対する影響も大きくなるため、『環境に対してやさしい手法を開発して、コストや環境負荷を下げよう』というのが半導体業界共通の課題となっています。

塗布・現像プロセスがなぜ環境負荷削減の糸口になるのか?

--まずはコータ・デベロッパが半導体製造において果たす役割と、塗布・現像工程の流れのなかで環境負荷につながってしまう原因についてお聞かせください。

コータ・デベロッパは、半導体ウェーハにフォトレジストという感光フィルムをつくるためのコータと、露光機を通ったウェーハから不要なレジストを除去するデベロッパの2つの機能を持った装置です。

塗布・現像工程で環境負荷につながってしまう原因の1つが、使用する薬液の廃液処理です。

そしてもう1つが電力です。コータ・デベロッパでは、フィルム焼成の熱処理が消費電力の約半分を占めていて、なかには300℃を越えるフィルム焼成工程や温度均一性1℃未満に制御するような高精度焼成工程があり、処理温度を一定に保つために多量の電力を使っています。さらに、ウェーハを処理しない待機状態でも常にヒーターに電力を供給して、高温や高精度な温度均一性を保っているため、こうした工程でエネルギー消費が増えてしまうのです。

--今回の取り組みはどのようなところに着目されたのでしょうか?

従来は「高価な薬液の使用量を減らす」というアプローチをしていました。薬液の使用量が減ればコストが下がるだけでなく、廃液を減らすことにもつながるため環境負荷削減に繋がります。

20年以上前から塗布・現像工程でのサステナブル開発の動きはあり、現像液や他の薬液削減などに広がっていきました。過去の製品と比較すると、この改善によって必要な薬液量を大きく削減することができましたが、このアプローチでの改善は限界に達していたため、次の手法を使う必要が生まれたという背景があります。

そこで、環境負荷削減のもう一つの課題である電力削減に取り組みました。きっかけとして、国内では東日本大震災の電力ひっ迫に伴う電力削減への機運の高まりと、海外でも近年情勢不安によるエネルギー価格の高騰などがあり、今回私たちは熱処理にかかる電力消費に着目しました。

世界的にエネルギーコストが増大していることもあり、電力削減に向けてフォトレジストの下地となる下層膜に対し、熱処理を行わなくても同様の効果が得られる手法の開発が本格化しました。

私たちには高温環境ではなく、光エネルギーで塗布膜を硬化させる光架橋というアイディアがありました。熱処理は待機状態でも電力を消費するのに対し、光架橋技術であれば必要な時だけ光を照射すればよいため、消費電力量を減らすことができます。

一方、薬液メーカーも光架橋に対応した素材のアイディアがあり、今回の取り組みはニーズに必要なシーズが揃っていたというのがポイントでした。

  • (図版)サステナブルなプロセスに対しての取り組み

--貴社のコータ・デベロッパでは、どのような環境対応技術が取り入れられているのか教えてください。

本来は200℃以上の焼成を必要とする工程で、フォトレジストの下に成膜する下層膜材料を焼成(熱)による反応ではなく、室温で反応させて成膜するという最新の技術を開発しました。

もともとフォトリソグラフィーでは光を使った光触媒反応を使っており、材料メーカーからも、熱による架橋反応(膜を溶剤で溶けなくする)や光触媒を使った光架橋反応は扱いやすいと聞いていました。そこで当社からは、半導体デバイス製造で使用可能な光照射ユニットをつくり、材料とシステムの共同開発を実施しました。

imecのSSTSプログラムによる協業で効果の可視化へ

--今回の取り組みにはimecとの協業がポイントになったということですが、どのようなところに効果があったのでしょうか?

imecとは2002年以降の長いお付き合いになりますが、サステナブル開発という観点では2022年から開始されたSSTS(Sustainable Semiconductor Technologies and Systems)というプログラムがあります。

従来であれば、機器を使用する顧客からのヒアリング・リクエストに応じた開発という流れになっていましたが、SSTSの場合は、要求・必要対応事項への取り組みや開発という流れとなります。

今回は私たちが光架橋を採用したコータ・デベロッパを開発し、薬液メーカーが光架橋の下層膜を開発しました。しかし、一連の半導体製造プロセスで今回の開発が適用可能かどうかの検証・可視化が不可欠で、この点をimecにご協力いただいています。

今回の光架橋技術についても、当社のコータ・デベロッパであるDT-3000をimecに納入し、信頼性や数値の可視化をしていただいています。

--光架橋技術によって得られる効果について、教えてください。

imecによる初期評価では、従来の熱処理ではなく光架橋技術を採用することにより、必要な電力量を65~85%削減し、CO2-e(温室効果ガスをCO2に換算した指標)に関してもScope2で24%の削減ができることが確認できました。

さらにフォトレジストの熱処理時間よりも光架橋の方が短時間で完了するため、時間当たりの処理枚数の向上にも寄与します。

このように光架橋フォトレジスト膜の品質に関して初期評価では問題なしという結果をいただいており、今後一連のプロセスフローで最終性能評価を実施予定となっています。

EU基準では環境負荷全体の評価なので、光架橋技術は効率が高いといえるでしょう。今回は装置メーカーである私たちだけでなく、薬液メーカーとimecが三位一体となってSSTSプログラムを活用した事例になります。

この室温の光照射技術の採用により、エネルギーを削減されたい企業はもちろんのこと、高温プロセスでの成膜で基板変形や膜割れなどの課題をお持ちの企業にも、ぜひお試しいただきたいです。

imecとは5年の長期協業を締結。長期的視野でさらにソリューションを開発

--今後の取り組みについて教えてください。

imecとの協業に関して、2025年3月に「Strategic Partner Agreement」を締結しました。

お互い長期の関係性を重視した結果、今回、5年間の長期契約となりました。最初の2年間に関してはすでに具体的な目標を定めていますが、残りの3年に関しては今後の情勢を見たうえで協議していきます。年4~6回の対面ミーティングや頻繁な現地訪問による協働体制で活動する予定です。

  • 実際の対面ミーティングの様子

    実際の対面ミーティングの様子

今後、規制の強化によって今まで使えていた素材が利用できなくなることも想定されます。規制の変化を把握し、協業体制により新しい技術やひらめきが生まれ、新たな規制に対応するアイディアにつながる可能性もあります。こうした体制を活かして、持続可能なソリューションをこれからも提供したいと考えています。

プロジェクトには多様な国籍で専門も異なる優秀な人材が参加しています。考え方や方向性の違いを感じることもありましたが、相互理解を深め、開発がスムーズに進むよう、オンラインミーティングだけでなく、一堂に会してのオフラインミーティングも多く設定しており、よいシナジーが生まれていると感じています。

--最後に、今後のSCREENセミコンダクターソリューションズの展望についてお話しいただけますか?

サステナブル技術の開発を、社会の流れの一環や、各国の要請によるものなどといったネガティブな受け止め方ではなく、ビジネスチャンスととらえています。

今回の技術は先端プロセス向けに開発したものですが、レガシーノードにも拡大していければと考えていますし、材料メーカーなど他分野の企業と引きつづき協業することで、新しい技術・価値を生み出し、今以上に良い環境を実現し、社会に貢献していきます。

  • 春本氏のロゴ前写真

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